『相対』✱壱

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草木が枯れ、動物達の眠る頃

僕は"奴"と出会った……

 

✱✱✱

 

「え、外部の子供と仕事ぉ?

やだ!ぜーったいヤダ!!」

 

咲玖に呼ばれてカフェに来て

奢ってくれると言うのでケーキを3つ頼んだところで

こんな事なら来なければ良かったと後悔した

 

「やだ…って、もう決まってるんだよ黒雨

来週 その子と一緒に雑誌の撮影をしてもらうからね」

 

目の前には写真付きのプロフィールと

仕事内容の書かれた資料が置かれている

写真に写っているのは無愛想な表情をした金髪の少年

見るからに生意気そうである

 

「えー、っていうかこの子だれー?僕らの事務所の子じゃないよね?」

 

「ユウトくんだよ、結ぶに一斗二斗の斗で結斗くん

芸能事務所には所属しないで セルフプロデュースで活動してるんだって

まだ15歳なのに...凄いよね」

 

ニコニコしながら感心している咲玖を見て

ああ やっぱり平和主義者って呑気だなーと思った

 

15歳の子供がセルフプロデュース...

つまり大人にあれこれ言われる事なく

自由気ままに芸能界を生きているのだ

性格に難がある可能性は大きい

 

それに一つ、気になる事がある

 

「ねぇ 僕は契約でVanneメンバー以外とは仕事しないはずなんだけど

なんでこの子との仕事が決まってるの?」

 

人間が嫌いな僕がこの世界で仕事をするには

かなり無理があったんだけど

それでも引き受けたのは この契約があったからだ

何故ここに来てそれが反故にされたのか

全く訳が分からない

 

「うーん、それがね この結斗くんたっての希望らしいよ

事務所としても契約の話はしたんだけどね

ドタキャンされても構わないから とにかく仕事の話だけでも黒雨にしてくれって

もしかして...黒雨の熱烈なファンなのかな?」

 

爆発しろ昼行灯

"ドタキャンされても構わない"?

プライベートのお誘いならまだしも

こと仕事においてそんな馬鹿な話があるか

既に仕事内容は僕に通った

ここで無理矢理断ろうが本当にドタキャンしようが

心証が悪くなるのはこっちだ

このやり方は僕の退路を完全に断つ為

 

「...そんなに僕に会いたいんだ ユウト」

 

改めてプロフィール用紙を見てみた

趣味がアクアリウムなのに好きな食べ物は焼き魚

どういう神経をしてるんだこいつは

 

しかも僕より背が高いとか...気に入らない

 

「きっとすっごく会いたいんだよ

1日だけだし 一緒に仕事してあげなよ

ついでにサインくらいプレゼントしたら?」

 

完全に結斗をファンだと勘違いしているおバカさんは置いておいて

会いたいなら会ってやろう

何が目的かはどうでもいい

二度と僕に近付きたくなくなるようにしてやろう

 

そう、思っていたのだけど...

 

✱✱✱

 

吐く息も白いこの季節に

僕らモデルは夏服を着て撮影をする

来年の特集に載せる写真を今撮るのだ

 

今回、ロケ地も相手から希望があった

 

目の前に広がるのは

どこまでも続く、ゆらゆらと、青い...

 

「...海とか、馬鹿じゃん」

 

そりゃあ夏のロケーションとして

海での撮影は避けて通れないけれど

ただでさえ初対面の奴と仕事なんていう地獄をこれから味わう僕に

相当な酷い仕打ちである

 

「最初から長引かせるつもりはなかったけど

本当にさっさと終わらせよう」

 

衣装に着替えるために仮設の更衣室に向かった

結斗はまだ来ていないのか、今のところ会ってはいない

 

なんならこのまま来なくても...

 

「あ」

 

願い虚しく そこに彼はいた

更衣室の奥で夏服に身を包み 鏡でバランスを調整している

 

鏡越しに目が合った瞬間

少しだけその口元が歪んだ気がした

 

「あ...黒雨さん

その、挨拶が遅れてすみません

衣装のサイズが合わないかもしれないとスタッフさんに言われて

急いでフィッティングしてたんです」

 

慌てて申し訳なさそうに頭を下げて

少し丈のあっていない裾を広げてみせる

その仕草は子供らしく、礼儀は大人っぽい

ただ それはその辺の馬鹿にしか通用しない

 

「挨拶なんか要らないし、ましてや"すみません"なんて思ってもないこと言わなくていいよ

ユウト...僕に用があるんでしょ?」

 

ほんの数秒 僕を見つめた後

すぐに表情を戻して、笑った

15歳という年に似合わない

酷く冷たい笑顔

 

「お前さぁ、人間嫌いなんだって?」
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「!」

 

ゆっくりと近付き、僕の真後ろにある扉に手を伸ばすと

目を見たまま静かに鍵を掛けた

 

「...やっぱり本性はバレたら困るんだ?」

 

「まぁな、だからこれから先の会話はオフレコ

お前も本性バレたら困るだろ?黒雨」

 

少し遠くで撮影の準備をするスタッフ達の声が聞こえる

仮設の更衣室だから防音性は低いけれど

扉を閉めてしまえば 会話はそうそう聞こえない

 

「質問に答えろよ、お前 人間嫌いなんだって?」

 

未だ鍵に指を掛けて 僕との距離を取ろうとしない態度に吐き気がする

 

「そうだよ。だから...

 

僕から離れて」

 

腰のシザーケースから精密ドライバーのマイナスを取り出して

結斗の首元に突き付けた

 

「うわ、凶器持ちかよ 信じらんねー」

 

そう言いつつ 彼は大して怯まなかった

ギリギリでドライバーを避けながら その指はまだ鍵に触れている

 

「離れてってば、気持ち悪い」

 

皮膚に軽く刺さる程度に力を込めると

僕の要求とは逆に、手を掴んできた

 

その行動に驚いて手の緩んだところを逃さず

あろうことかそのままドライバーを自らの首へ突き刺した

 

「な...に、してんの」

 

早く引き抜こうと力を込めるも 案外強い結斗の握力に負けて

引くことも離すことも出来ない

 

「はは、お前さぁ

人ひとり殺せないクセに人間嫌いとか

 

...浅ぇな 雑魚」

 

抵抗を止めた僕の手ごとドライバーを引き抜くと

傷口を手で抑えながら部屋の奥へ歩いて行く

 

やっと離れてくれたというのに 気持ち悪さは残ったままだ

結斗の血が付いたドライバーを その場に捨てることも仕舞うことも出来ずに立ち尽くした

 

「あーあ、こんなんじゃ死なねぇよ

次はもっとマシな凶器持ってこい」

 

私物であろうトートバッグから 大きめの絆創膏を取り出し

手馴れた様子で貼りながら文句を言い出した

 

「ナイフはやめとけよ、ダセェから

まぁ 精密ドライバーも有り得ねぇけど」

 

嘲笑し、また僕の方へ近付いてくる

距離を置きたくても後ろは扉 逃げ場はない

 

「...君は 死にたいの?」

 

先程よりは距離の空いた所で立ち止まると

僕の問いに満足気な顔を見せた

この質問を待っていたみたいだ

 

「死にたいんじゃなくて、殺されたいの」

 

「...僕に?」

「お前に」

「何故?」

「秘密」

 

理由すら言わずに殺されようというのか

なんて身勝手な子供だ 全く可愛げもない

そもそも僕は本当に人間が嫌いなのに

僕自身が人間だから殺したくても殺せないんだ

果たしてコイツにそういう微妙な部分が伝わるかな

心とか、感情とか、無意識的な話が

この子供に伝わるの...?

 

しばらく考え込んでいる間に

気付けば結斗との距離は無くなっていた

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緩く、至極優しく 抱きしめられていた

 

「ぅ...え、待って 待って 吐きそう!」

 

少し高いその体温が 僕の皮膚に混ざって飽和する

慣れた咲玖達の温度とは違う感覚に

息が詰まって倒れそうになる

 

だけど、結斗が身体をしっかり支えていて

倒れ込むのを許してくれない

 

「はは、本当に気持ち悪そうだな」

 

「分かったなら 離して、よ...お願いだから」

 

懇願してみたものの

無視を決め込まれてそのまま話が進む

 

「なぁ黒雨...

お前は人間が嫌いなんじゃなくてさ

 

人間が───」

 

何言ってんの...聞こえない

気持ち悪い

 

意識が

 

遠のく

 

 

 

 

 

 

✱続く✱