伝わる想い...

「シャーロット...シャーロット、おい」

 

「にゃーん...」

 

てしてしと尻尾で床を叩きながら

黒猫のシャーロットが振り向く

 

「お前、俺のピアス持っていっただろ

どこへやった?返せよ」

「ニャー...」

 

バレたか...という目をして

仕方なくピアスを持ち込んだ自分の寝床へ歩いてゆく

 

「ニャー、ニャー」

 

"ここにある"と、寝床の毛布を爪で引っ掻いて教える

 

「ああ、この下か

まったく...ピアスは玩具じゃねぇぞ」

「ニャー...」

 

奪われた片方のピアスを付けると

シャーロットを抱き上げてキッチンへ

 

「今日はなに食う?...つっても、全部キャットフードだけどな」

 

棚に並ぶ沢山のキャットフード

それぞれ一袋が一食分で

味は五種類ほどある

 

「ニャー...ン...ニャ!」

 

顔を寄せてキャットフードを品定めしていたシャーロットが

一つの袋の前で鳴く

 

「ん?ああ、これか...ちょっと待ってろ

いま皿に出してやるから」

 

隣の棚を開き皿を選び取る

シャーロット用の餌皿もこれまた沢山あるのだ

白くて円いシンプルな平皿

銀細工の施された小さな皿

猫の顔の形をした黒い皿もある

 

「ほら、食っていいぞ」

 

餌を皿に出してやり

テーブルの上に置くと

シャーロットは椅子に飛び乗り座る

不思議なものでテーブルには乗らない

 

「ニャーン」

 

"いただきます"の代わりに一鳴きして

チビチビと食べ始めた

 

と、そこに

 

(ガチャガチャッ...ガチャン)

 

「あん?誰だ...」

 

玄関が開き、誰かが入ってきた

 

「うぃーっす襲ぇ♥

つーか、また鍵閉めてなかっただろー

危ねぇなぁもうー

不審者が入ってきちゃうぜっ!」

 

「ああ、お前みたいな奴の事か...冬羽」

「ニャーン」

 

「俺は不審者じゃねぇだろ!」

 

まるで我が家のように

ずけずけと上がり込んだ冬羽は

これまた我が家のように

シャーロットの隣に座った

 

「ニャー...」

「おー、シャーロットちゃん!

元気かー?って、食事中だった?

これは失礼しましたレディ」

 

わざとらしく謝る冬羽に

シャーロットが向けた目は冷ややかで

しかし彼は気にも止めず

襲に話しかけ始めた

 

「あのさ、俺ちょっと話があってー...聞いてくれねぇ?」

「嫌だつっても話すんだろ...」

 

そう言いながらキッチンへ行き

二人分のコーヒーを淹れて戻って来ると

冬羽の前の席に座った

 

「サンキュー♪襲が淹れるコーヒーって美味いんだよなぁ...んー、いい香り」

「そりゃどーも...んで、話ってなんだよ」

 

コーヒーを一口飲むと

冬羽はゆっくり話し始めた

 

「俺ってさ、Vanneに必要あるかな...」

「...はぁ?」

 

それは思いもよらぬ言葉で

ハッキリ言えば愚問で

おおよそ"看板息子"と言われている彼に

似つかわしくない悩みだった

 

「なんだその悩みですらねぇ悩みは...お前Vanneで活動しなきゃどこでやってくんだよ」

「ん...それって俺がVanneに必要ってコト?」

「あー、まぁ、そうだな...つーか」

 

呆れたように肘をつき

襲は真っ直ぐ冬羽の目を見た

 

「Vanneがお前を必要としてるんだよ...」

 

元々、Vanneというグループは

看板息子の冬羽を活躍させるために

冬羽に無い要素を持ったメンバーを集め

結成されたグループ

 

つまり、Vanneは冬羽のためにあり

冬羽はVanneのためにある

 

しかしそんな事を

当人は知らないでいたのだ

 

「Vanneがー...俺を...」

 

なにやら考え込み始めた冬羽に

そもそもの疑問をぶつける

 

「つーかお前、なんでそんな訳わかんねぇ悩みが急に出てきたんだよ...馬鹿じゃねぇのか

いや、お前は馬鹿だったな...忘れてたわ」

「ニャー...」

 

「Vanneが...おれ...って、馬鹿じゃないし!

ん?あ、俺がなんでそう思ったかって?

そりゃあ俺ハイテンション以外に良いトコねぇし...あんまり個性なくね?

だから、いてもいなくても大差ねぇんじゃないかと思って」

 

ハイテンションを良い所としているのは

些かどうかと思うが

まぁ今は置いておこう

 

「やっぱり馬鹿じゃねぇか」

「なんだとぅ?!」

「ニャーッ!」

「痛いっ!ちょっとシャーロットちゃん急に引っ掻かないで!冬羽くん泣いちゃう!」

「ナイスシャーロット」

「ニャーン」

「やだ怖いこのコンビ...」

 

もちろんVanneは襲のためにもあり

咲玖のためにも、黒雨のためにも存在している

だが、存在する原因と言えば冬羽だ

冬羽が生まれなければVanneもなかった

その辺を彼は理解していなかったのだ

 

「お前が急に的外れなネガティブを抱えるのは今に始まった事じゃねぇけどな

その話はあれこれ議論したり助言を貰ったりする必要すらねぇよ

お前がVanneであり、Vanneはお前なんだ

くだらねぇこと言ってねぇで働け」

 

そう、冬羽の長所はいついかなる場合もポジティブであるところ

しかし彼はポジティブなままネガティブなものを抱え込むことがある

それは酷く矛盾していて

だからこそ危うい...

 

「んー、そっかぁ

じゃあ俺はVanneの冬羽でいなきゃだな!

違ったら今から辞めようかと思ってたんだけど、そうじゃねぇならいいや」

 

こういう具合で、実に厄介な性質だ

 

「今からって...またそんな極論持ちやがって

お前ホント馬鹿だな」

 

下手なことを言わずにおいて良かったと

内心ホッとする襲をよそに

当人はあっけらかんとしている

 

「そうかー?」

「そもそも辞めた後どうする気だったんだよ」

「それは...ま、なんとかなるっしょ!

結局、辞めずに済んだしめでたしめでたし」

 

つまり無計画だったということ

そして辞めるという結果にならなかったのだから

無計画だった事に関してはもうどうでもいいということ

だから、めでたしめでたし

 

「テメェ頭のネジどっかに落としてきたんじゃねぇのか」

「ニャー!」

「いっっってぇ!!だからシャーロットちゃん急に引っ掻かくのやめ...」「ニャッ!」

「いたっ!猫パンチもやめてってばー!」

「いいぞ、泣くまでやれシャーロット」

「泣くまで?!」

 

その後、ひとしきりシャーロットに引っ掻かれパンチされ疲弊した冬羽は

半ば逃げるように帰った

 

「ニャフ!」

「満足気だなシャーロット...」

「ニャーン」

「ああ、あれでいい

あの馬鹿にはあれで...」

 

座り込み、目を閉じて深い溜息を吐く

 

「ニャー...」

 

心配そうに寄り添うシャーロットを撫でる

 

「アイツは"ああ"だから、自分の存在の大きさや危うさには気付かねぇんだ

多分、咲玖や黒雨も薄々感じてるだけで冬羽に闇があるって認識はしてねぇだろうな

俺だけが知ってる...よりによって俺だけが気付いた...言葉が過ぎるのに言葉が足りねぇ俺が...」

 

「ニャ...」

 

「ゴチャゴチャ言わねぇで教えてやりゃあ良かった...お前は絶対必要だって、一言...分かりやすく伝えてやれば良かった...けど、俺には...」

「ニャーッ!」

「...っ!」

 

初めて、シャーロットが襲に爪を立てた

 

「なんでここで怒るんだよ...悔やむなって?」

「ニャ!」

「つったって...あんな回りくどい言い方じゃアイツまた訳わかんねぇ悩み持ってくるぞ...もっと根本から解らせてやらねぇと」

「フシャーッ!」

「いってぇなオイ!俺に毎回アイツの闇を払えとでも言うのかよ!」

「ニャーン」

「...マジか、それ俺の役目か?」

「ニャフ!」

「あーそう、そーですか...クソ冬羽くたばれ

厄介な生き方しやがって

...まぁ、俺も大概 人のこと言えねぇか」

「ニャー...ニャー...」

「お前は相変わらず変な猫だな

さっき俺に説教したろ...なんでか知らねぇが解った

いつもお前の言葉は伝わってくる

ニャーしか言わねぇのに...な...」

 

そこまで言って彼は気付いた

何を言っても伝わるものは伝わる

どんな言葉でも、言葉ですらなくとも

そこに"想い"があれば

きっと、伝わるのだと

 

「...そうか、俺でもいいのか

俺にも、アイツを闇から掬い上げることは...」

「ニャーン...」

 

そうして、襲は冬羽の影で光になることを

密かに一人 心の中で決めたのだった

 

これは、Vanneが結成され

半年経った日のお話である。