Vanneキャラクターソング Ver.冬羽


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「Secret Word」

唄:冬羽(Vanne)

作詞:MWCO

作曲:MWCO

 

さぁ、教えてくれ君の回答(こたえ)を

この心 満たせるだけの中身はあるの?

未だ知らないコトを知りたいから

今ここで 明かしてくれ SecretWord!

 

"もしも"なんて とても曖昧な

好奇心に負けるのも

悪くはないよと笑って

今日もまた踏み外しそうな闇を見る

 

どうしても 知らずには

済ませらせない訳じゃないけど

感じてる 気持ちには嘘つけなくて

 

さぁ、教えてくれ君の回答(こたえ)を

この心 満たせるだけの中身はあるの?

未だ知らないコトを知りたいから

今ここで 明かしてくれ 真実を!

 

"多分"なんて 酷く適当な

あしらう言葉なら要らないから

感じてる 気持ちには嘘つかせないで

 

さぁ、聞かせてくれ君の解答(こたえ)を

この心 満たせるだけの重みはあるの?

もう知らないコトなどないほど

いっそ全て明かしてくれ...

 

さぁ、教えてくれ君の回答(こたえ)を

この心 満たせるだけの中身はあるの?

未だ知らないコトを知りたいから

今ここで 明かしてくれ SecretWord!

『"だろう"とか思っているから』

「俺、死んだらどーなるのっかなー?とかそんな好奇心は薄れたんだけどさ、じゃあ果たして殺されたらどうなるのっかなー?なんて思い始めたんだけど、お前どう思う?

...ねぇ、黒雨」

 

二人きりの楽屋で

唐突に、けれどほぼいつも通りに

冬羽の"好奇心"が発揮されていた

 

違うことと言えば、相談する相手が違った

本当にいつも通りならばそこには襲がいるはずであり

そして襲はこれまたいつも通り『テメェを殺す手はねぇな』などと答えつつ阻止するはずだ

 

しかし今回、目の前の相談相手は黒雨

無邪気と邪気の塊で

無邪気が邪気を被り

邪気が無邪気を被った彼は

当然、襲のような答えはしない

そして、こんな相談をされても顔色ひとつ変えず

差し入れのケーキを食べながら言うのだ

自然に自然とこんな答えを...

 

「へー、ほー、ふーん

トワたんは殺されたいんだー

じゃあ今すぐ何もかも終わりにしようよ
僕が粛々と手伝ってあげる
安心して、直ぐ一瞬で尽く完全に恙無く軽率に悠々と安易に終わる
その気になれば命なんてそんなものさ
君はそれを!望んで!いるんで...しょっ!」

 

さっきまでケーキを突っついていたフォークの柄を握り込むと

躊躇なく頸動脈目掛けて振りかざした

 

「っ...ぅおぉあっぶね!」

 

間一髪のところで避けられたフォークが

冬羽の後ろの壁に突き刺さり止まる

 

「...ちょっとぉ、避けたら殺せないでしょー?って、あっ!抜けないぃー!」

 

しっかり壁を刺したフォークは簡単には抜けず

黒雨は唸りながらなんとか引き抜いた

 

「ぃや、いやいや黒雨くーん...まさか本当に殺されると思わねーじゃーん

トワたんビックリだわー

つーか、お前を殺人犯にはしたくねぇし!」

 

驚きと若干の恐怖で笑顔の引き攣る冬羽を他所に

何事も無かったように引き抜いたフォークで再度ケーキを食べながら話しを進める

 

「僕は別に殺人犯になってもいーよ

だって殺人したからって自然は汚れないしー

むしろ自然を汚す人間が減るなら結果オーライ?

あー、でも骨は残るんだよねぇ

人の骨って土に還らないんだよ...はぁ、全く迷惑だね」

 

(何の話をしてるんだ...)

 

完全に本来の"相談"からズレているし

例え本人が良しとしてもやはり友人を殺人犯にはしたくない

かと言って冬羽の相談内容に、その好奇心に嘘はないのだ

本当に殺されたらどうなるのか気になるし

もしさっきフォークを振りかざしてきたのが見知らぬ他人なら構わず刺されたかもしれない

 

「あのー、黒雨?俺は殺されたらどうなるのかなって思っただけで、殺されたい訳じゃねーし

やっぱりお前を殺人犯にはしたくないし

んでもって...」

 

「殺されたらどうなるのか知りたいなら殺されてみなきゃわからないし

つまり君は殺されたいんだって結論にしか至らないし

殺されたら僕が殺人犯になろうが君には関係なくなるし

んでもって、君は好奇心の使い方を間違えてる」

 

薄々気付いているだろうか

黒雨という人間は"こう"なのだ

 

答えは大体0か100で

120は無くとも-100はあって

人間の命の重さはピラミッドの一番下で

自分の身の振り方はどうでも良くて

つまり人間に対してどうしようもなく"非情"

 

法律も常識もルールもしきたりも

人間が作ったものであり自然のものではない

だから従う価値はない

そしてまた自分自身も人間であるがために

大切にする必要がない

 

それでも彼が今日まで生きているのは

人間として消しようのない本能、死への恐怖を克服できずにいるからだ

もしそれを消せたならば、彼は明日にでも全人類を巻き添えに死ぬだろう

 

自然を自然と殺しているのは人間

後から来たくせに我が物顔で生意気だ

地球滅亡は阻止しても人類滅亡は喜んで受け入れる

それが黒雨の考え方である

 

「えーっと、まぁ黒雨の自然大好き人間嫌いは置いといて...好奇心の使い方ってなに?」

 

生クリームでデコレーションされた口周りも気にせず

ケーキのイチゴをちびちび食べながら冬羽を見つめる

 

「好奇心ってのはねぇ、分かりきったことには使わないんだよトワたん

いつも思ってたんだけど...傍から見たら君ただのメンヘラだよ

『Vanneを辞めたらどうなるか?』解散するか君がいないだけの新生Vanneが始動するかどっちかだろ

『死んだらどうなるか?』死ぬよ

『殺されたらどうなるか?』死ぬだけだよ

どれもこれも"それだけ"だよ

そんな程度の答えしかないよ

君はそんな程度も想像つかない...ワケないよねぇ

だからって止めて欲しいとか心配されたいとか注目されたいとかでもない

ただ好奇心の使い方を間違えてるんだ」

 

根も葉もない

進路も退路も経ちかねない事実を淡々と告げると

この話は終わりとでも言うように黙々と残りのケーキを食べ始めた

 

「...やっぱり、そんなもん?」

 

「やっぱりそんなもん。だよ...それ以上も以下もない

死にたくないなら二度と考えない事だね

まぁ、もっとも"殺してみたい"とかいう好奇心なら僕は喜んで付き合うよ」

 

「殺したら相手が死ぬだけとは言わねーのな」

 

「...うん?そりゃあ死ぬだけだよ

でもねぇ、僕は一人でも人間が減るなら万々歳だし

もしかしたら命を奪った罪悪感みたいなものが生まれて死にたくなるかもしれないし

そしたら僕も減って万々歳だよね」

 

またしても論点をズラされた気がする

 

「黒雨さぁ、そんな人間嫌いなのによく俺らと仕事したりプライベートで遊んだりできるよな...それこそ殺したくならねぇ?」

 

「うん、なるよ」

 

ケーキを食べきって次のおやつに手を伸ばしながら

日常会話的に恐ろしい答えをしれっと言う

 

「...なるのかよ」

 

「でも僕も残念なことに人間だから、なけなしの友情とか同情とか愛情とか

米粒くらいの罪悪感とか恐怖心とか背徳感とか

申し訳程度の喜怒哀楽なんかがあるわけで...

そんな諸々の脆弱な人間らしさを最大限使って君達と仲良くしてるの」

 

「あ、そう...そりゃどうもありがとうございます」

 

「どういたしましてー

まっ、君達って僕が好きだからね!

こんな人間嫌いで我が儘で適当で可愛い僕のコト...何故か好きでしょ?」

 

そう、冬羽も咲玖も襲も...事務所のスタッフ達も黒雨が好きだ

"何故か"好きなのだ

 

「はは、ほーんと何でか分かんねーけど大好きだぜ黒雨」

 

「...本気にしてないからだよ」

 

「え?」

 

鈍い音と共に鋭い痛みが走った

鎖骨の辺りに違和感を感じる

目の端に嫌でも映るそれは

 

「...っあ、フォー...ク...?」

 

「僕が本当に人間嫌いだと思っていないから

僕が本当に人類滅亡を歓喜すると思っていないから

僕が本当に人間であることを残念で仕方ないと思っているなんて

まさか、まさか、まさか!自分も人間のクセに人間を嫌いだなんてそんな!

中二病じゃあるまいし...ってねー?」

 

 

「って...あ、嘘だろ黒雨...お前」

 

先程、壁を突き刺したフォークが

今度は確実に冬羽の首元に刺さっていた

運良く急所は外れていたが

見事に刺さったそれは

抜くのも放置するのも怖かった

 

冬羽は黒雨から距離を取り

フォークごと首元を押さえる

 

「君達が僕を好きなのはね、なに簡単な話だよ

僕をただの自然愛好家だと思ってるからだ

そして大体自然を壊すのは人間だから

まぁつまりそんな感じで人間を嫌いだなんて言ってるだけだって

本当は友達だけは大切で、本当に人類滅亡なんて起ころうものなら他者と共に阻止する道を選ぶだろうと

"だろう"とか、思ってるから...まぁ君はそんな目に遭ってるんだけどね?」

 

「は、マジかお前

本当に人間が嫌いだって言うのかよ...」

 

「まぁね

けれどもう一つどうしても、忌々しくも本当の事がある

僕にもなけなしの米粒くらいの申し訳程度の感情が存在するから

だから...急所を外しちゃった」

 

「俺的にはラッキーな訳だけど...あー、ホントまさかだわ

まさか刺されるとは思ってなかったし

つーか、お前の言った通り勘違いしてたよ俺は」

 

「そう、だと思ったー

人は殺したら死ぬし僕は人が嫌いだし嫌いなものは殺したい...僕はいつだってこんなにも正直にお伝えしてきたのに

誰も本気にしてないからビックリしちゃって

本当にもうどうしようかと思ってた」

 

「でも、お前はやっぱり人を殺せない...だろ?

えーっと...なけなしの米粒くらいの申し訳程度の感情があるんだからさ」

 

「嫌なとこ突いてくるなよトワたん

いや、突かれてるのは君の首元だっけ

まぁいいや...そうだよ殺せない

で?だからって君は明日からまた僕を好きでいられる?明日からまたオトモダチに戻れる?そーんな都合のいい...」

 

「戻る必要はねーよ、そもそも今だって未だに俺はお前が好きだし友達だと思ってるぜ、黒雨」

 

───今回、冬羽は相談相手を間違えたが

黒雨もまた相手を間違えていた

突き刺した相手は何かを嫌うとか軽蔑するとかそんなネガティブな感情を持ち合わせていない

全てをポジティブに変換するような男であり

また、一度友達と"思い込んだ"相手を

二度と他人とは思わない男だった

 

「今まさに刺されたのに友達のままだって?あっははー、バッカみたーい

そう言えば君ってそんな奴だった

忘れてたよ...失敗したなぁ

でも襲たんや咲玖たんはどーかなー?

僕が君を刺したなんて聞いたら

怖くて二度と僕に近寄れないんじゃない?

それこそ今日にでもVanneは終わりだよ」

 

「襲と咲玖がそんな薄情だとは思わねーけど...まぁ、だったら俺が黙ってればいいんじゃね?バレなきゃオールオッケー的な?」

 

「うっわー、ポジティブもそこまで行くと病気だよ

なのに後ろ向きな好奇心でいつも襲たんを困らせてるんだ...タチ悪ぅい

でも、いーの?ここでトワたんが黙ったら、僕は次に襲たんや咲玖たんを刺すかもよ?

殺せないからって殺さない理由にはならない」

 

「いやいや、なるっしょ

殺せねーのに殺したって骨折り損じゃん

お前はそんな面倒はやらねーよ」

 

人間嫌いでも、我が儘で適当で可愛い黒雨のこと

そんな邪気だけの行動はしない

それは冬羽も襲も咲玖も...みんなが知っていた

そして、それは事実だった

 

「...あーあ、僕の可愛さが仇となったね」

 

(可愛さじゃなくて我が儘で適当ってところだと思うんだけど...)

 

「じゃあもうトワたんの甘さに甘えて僕は明日からもしれっと君達の友達でいるよ

せーぜー怪我がバレないように尽力してよねー」

 

「はは、大丈夫だって

見た目はエグいけど言ってもフォークだからな...大した傷口じゃねーよ」

 

「あっそ、そりゃなによりでー」

 

こうして黒雨の初めての人殺し(未遂)は

本当に何事も無かったように終わり

翌日からまた、平和なVanneの活動が続いた

 

冬羽はこれ以降、黒雨に相談することは無くなり

代わりに襲が全て負うことになった

黒雨はこれ以降、殺すことはしなくなり

代わりに咲玖がしこたま我が儘を聞く羽目になった

 

「なぁなぁ黒雨、いくらなんでも咲玖に我が儘言い過ぎじゃねぇ?」

 

「直接殺せないなら間接的に過労死とかどうかなーと思って、実践中★」

 

「咲玖たーん!逃げろー!」

 

 

 

 

 

もちろん

襲も咲玖も急に負担が大きくなった理由を知らず

ただただ振り回される日々を送ることになったのは言うまでもない

VanneSTORY 惹かれるもの

「シーン72 カット6 テイク2!」

 

助監督の掛け声と共に

カチンっとボールドが鳴り演技が始まる

 

「...俺の事、本当にもう好きじゃないの?」

 

目の前にいるのは昔の彼女

俺は彼女と再会し、別れたことを後悔して

彼女の気を引こうと必死になる

 

そんな"役"

 

「カット!OKでーす!ちょっと休憩にしましょう!10分後、再開します!」

 

カットがかかるとフッと力が抜ける

中には憑依型と言ってずっと役になりきっている役者さんもいるけれど

俺はON/OFFハッキリしているタイプだ

 

「はぁ、今回は全っ然 役に感情移入できねー...元カノと再会して未練が目覚めるってか?俺には元カノもいないっつーか恋愛感情もねぇっつーの」

 

「なにボヤいてるの冬羽?」

 

「あ、咲玖たぁん♥なぁなぁ俺ちゃんと未練がましい元カレ役できてる?」

 

「うん?大丈夫、ちゃんと表情も声色も役に合ってる

さっき監督もモニター見ながら頷いて満足気だったよ」

 

「よかったー...なんせ経験ねぇもん、何が正解かわっかんねーっての」

 

今回は咲玖も同じドラマに出演している

俺にとっては大変嬉しいキャスティングだ

役は元カノの旦那なんていうかなり相容れない設定だけど

 

「経験...かぁ、そう言えば冬羽は恋愛感情が分からないんだったね」

 

「そうそう、前ちょっと襲に相談してみたんだけどよく分かんなくってさー

咲玖は恋したことある?つーか絶対あるよな、なんか大人だもん」

 

「なーにそれ、ふふ...俺はまだまだ大人とは言えないよ

でも、そうだね、それなりに恋はしてきたかな」

 

「やっぱりー!!ちなみにどんな恋?」

 

「どんな...んー、普通だよ

相手を可愛い人だな素敵な人だなって思って...近付きたいって感情が生まれてね

話しかけるために色々と理由を作ってみたり

分かりやすく優しくしてみたり」

 

「え、まじピュアなんですけどー

なんなの?咲玖たんは俺への好感度を上げてどうする気なの?口説くの?」

 

「どうもしないし口説かないよ(笑)

冬羽が聞いたんじゃない」

 

「いやー、そんな絵に描いたような恋は漫画で間に合ってるから

もっと変わり種の恋ねぇの?」

 

「なに変わり種の恋って...それこそ漫画的だと思うよ

恋なんて本当はそんなものだよ

普通に惹かれて普通にアタックして普通に結ばれたり振られたり...ね」

 

「ちなみにキス出来るってのは恋とは...」

「言えないね、キスしたいって思うのが恋かな」

 

襲と同じ事を言われた

なんとなく分かってたけど

というか、普通に惹かれて...のところから躓く俺は一体なんなんだろう

 

「冬羽ー?もうすぐ撮影再開だよ?」

 

「えっ、あ、おう!」

 

スタッフから貰った紙コップのコーヒーを飲み干して

立ち位置に戻る

 

「冬羽!」

 

「?なーにー」

 

「別に女の子じゃなくていいよ、君が惹かれるものを想像してごらん!それを人に盗られたと思って演じてみて!」

 

「俺が惹かれるもの...? 」

 

 

 

 

 

「シーン75 カット2!」

 

カチンっとボールドが鳴り演技が始まる

 

(俺が、惹かれるもの...それが他人に...)

 

「ああ、無理だ...諦めるなんて...

そんなこと俺には出来ねぇ!

絶対にお前を取り戻してみせる!

何があっても、絶対に...絶対にだ!」

 

「...」

 

「あ、カ カット!OKです!!」

 

掛け声の後に周りがざわつくのが分かった

 

「あのー...今のなんかおかしかったっすかね?」

 

恐る恐る監督に聞いてみる

 

「逆だよ逆!冬羽くん今のいいよー!

もちろん今までのも良かったけどね、やっぱり演技感が残ってたんだよね

今のは全然、感情の乗り方が違ったよ!

次もその感じで頼むよー?」

 

思わぬ言葉に咲玖の方を見ると

OKサインを出してニッコリ笑ってくれた

 

「...はい!がんばりまっす!」

 

俺は気合いを入れ直し

咲玖のアドバイスを意識しながらその後の演技を無事に終えた

 

 

 

 

 

「カット!OK!これにて冬羽さんオールアップでーす!」

 

「ありがとうございましたー!」

 

パチパチと周りが拍手を送ってくれる中

咲玖が花束を渡してくれた

 

「冬羽、お疲れ様 最高の演技だったよ」

 

「へへっ、咲玖たんのおかげ!本当にありがとな!」

 

「どういたしまして

ところで、一体なにを思い浮かべたの?冬羽が惹かれるもの...」

 

「ん?知りたい?それはー...」

 

 

 

 

 

それは..."Vanne"

俺が惹かれて仕方のないもの

人も、事務所という場所も、皆との時間も

どれも他人に奪われたくない

どうしても惹かれてしまうもの

きっとこれからも諦められないもの

 

愛しい...俺のすべて

干渉

なかなかにぶっちゃけた話をすると

俺は彼が苦手だった

 

素の彼はいつも笑顔

別にその笑顔が嘘っぽいなんて事はないし

むしろ周りまで明るい気持ちにさせる

素敵な笑顔だった

 

けれど、俺はその笑顔の真裏のところに潜む

"何か"が怖くて、不安で、心配だ

 

間借りなりにもリーダーを務める身として

彼のもつ不安定なところを危惧していた

 

「やっほー!咲玖!今日の撮影もよろしくなっ?」

 

「おはよう、冬羽 よろしくね」

 

ポンっと俺の肩を叩き

軽い挨拶を交わすと

彼は荷物を床に置いて椅子に座った

 

ふと、服の襟から覗く首筋に

なにか嫌な跡が見えた

それは まるで...

 

「?なぁんだよ咲玖たーん ジッと見つめちゃって!いやんっ」

 

「ああ、いや、その...冬羽...首の、それ...」

 

「え?あー!これな、ちょっと昨日"絞めてみた"んだけどー...やっぱ跡残ってるかぁ

まっ、今日の衣装なら大丈夫っしょ!」

 

そうじゃない...そういう事じゃない

「絞めてみた」なんて言い方があってたまるか

何を思ってそんな事をしたんだ

何か悩みがあるなら言って欲しい

俺に出来ることがあるなら...

 

「咲玖たーん?...固まって、どした?」

 

「...何でもないよ」

 

言いたいことは山ほどある

こんなこと、放っておいちゃいけない

彼に確かめないと...

そう思っても、俺は言えない

 

俺の言葉で彼を壊してはならない

中途半端に救ってもいけない

首を絞める理由なんて大概決まってる

"死にたい"か"そういう趣味"かだ

 

どちらにしても俺の手には負えない

本当に死にたいなら俺は口出しするべきではないと思うし

そういう趣味だとしても同じこと

薄情だろうか、それならそれでいい

 

でも俺は、生きるより辛いことなんてないと本人が思うのならば

自ら終わらせてしまうことも悪ではないと思うから

四六時中面倒を見てやれる訳でもないのに

下手に手を出して彼を苦しめる方が

ずっと悪だと思うから...

 

「なぁ、咲玖ー?さっきからやっぱオカシイぜ?なに考え込んでんの?」

 

この想いくらいは言ってもいいだろうか

彼の人生に関係しないだろうか

せめて、これくらいは

 

「あのね、冬羽...君が本当に嫌だと思うのなら...その、この世界とお別れする道も、正しいんだと思うよ...だからね、きっと」

 

「え?なに?何の話?俺、別に嫌なことねーけど?」

 

「えっ、だって首...絞めたって...」

 

「あっ!俺が自殺未遂したとでも思った?ちーがーうーよー、咲玖たんの早とちりさんっ」

 

「え、ええー...」

 

「首は絞めたけど、死にたいとかじゃなくて...なんつーの?絞めたらどんな感じかなー?みたいな」

 

「...そんなの、苦しいだけでしょう」

 

「おう!予想より苦しかったぜー、ぐぇって声出た!」

 

こういうの、なんて言うのだろう

死にたい訳じゃなかったことには安心した

だけど、それ以上に不安になる

 

その好奇心で、興味本位で、一体どれほどの危険に身を晒しているのか

彼は分かっているのだろうか

 

「ねぇ...もし、手加減を間違って死んでしまったらどうするの?

首を絞めたら苦しいって事くらいやらなくても分かるだろう?

そんなことしてたら...」

 

「でも俺、生きてるじゃん?」

 

「...だから?」

 

「人間、死ぬべき時にしか死ねないもんだって!俺がまだ生きてるって事は、まだ死ぬべき時じゃねーから大丈夫!なっ?」

 

「それは...」

 

そうかもしれないけど

 

彼が何を考えてるのか分からない

命を軽く見ているわけじゃない事は知ってる

いつだって人にも動物にも優しく接しているし

死にそうな人がいたら彼は必ず助けるだろう

 

なのに

 

「どうして、そこに君は入っていないの...」

 

「入ってないって何に?」

 

「!...あれ、俺いま口に出してた?」

 

「おー、バッチリ聞こえた」

 

しまったと思ったけど

丁度いい機会かもしれないとも思った

一度、やっぱり聞いておかないといけない

その理由を...どうしても...

 

「ねぇ、冬羽...君は生きているものが好きなのに どうして自分のことは大切にできないの?

君だって生きてるじゃない...どうして死ぬことを恐れないの?」

 

俺が聞きたいことはこんな事だっただろうか

言葉を間違えてはいないだろうか

途端に不安が襲ってくる

 

「俺、自分のこと大切に出来てねぇかな...死にたがってるように見える?」

 

「え...」

 

「そりゃ、たまに好奇心で色々やってみちゃうけどさー...別に生きる事を投げ出してるとか死にたいとかじゃないんだぜ?いやマジで」

 

「じゃあ、自分を大切にする気持ちより好奇心が勝ってるってことじゃないか...そんなの、危ないよ...だから...」

 

だから...何なのだろう

そんなこと彼だって分かっているはず

やめられるならとっくにやめている

そんな事をさせてしまう何かがあるんだ

それは、俺にもあるもの

似たものを俺だって抱えてる

形も色も違うけれど、抱えてる

 

「咲玖...?」

 

「俺はね、俺の言動で誰かの未来が変わってしまうことが怖い

だから、皆の一歩後ろにいて干渉しすぎないようにしてる

冬羽は、何が怖くてそんな行動を起こしてしまうのか...自覚はあるかい?」

 

もし抱えてるものが似てるのなら

理由だって似てるかもしれない

それが分かったらもう少し

やりようもあるだろう

 

「何が怖くて、かぁ...そーだなー

俺は...肉体的な死は怖くねぇけど、皆に忘れられるのは怖いかな

でも生きたまま心が死ぬのはもっと怖いし

何より明日の朝 起きた時に今日の後悔を思い返すのが怖い...そんな感じ?」

 

「心を殺さないために、明日後悔しないために好奇心を優先してるってこと?」

 

「いぇす!そゆこと!」

 

やっと、わかった気がする

俺達が一時間後の予定を気にしながら

明日の準備に忙しなく動いて今日を生きている中

彼は今を生きてるんだ

今日という日に後悔を残さないように

精一杯、この瞬間を生きてるんだ

 

「なるほど...先のことは後回しで、今を充実させることに手一杯なんだね」

 

「ははっ、ガキっぽいだろ?将来の計画性ゼロ!でも、だからこそ俺は後悔ってやつがほとんどねぇんだぜ

あっても小さいこと、そのうち忘れるくらいのしょーもないこと

それって幸せじゃね?」

 

「そうだね、来るかどうかも分からない未来のことより

今を精一杯生きて後悔を蓄積しない...いいと思うよ

そういう強さが、君にはあったんだね」

 

「やーだー♥照れちゃう

あ、でも首絞めるのはちょっと考え直してみる

咲玖にすっげー心配かけるって分かったし

やっぱり死んだら意味ないもんな!」

 

「あ、いや...そうだけど、うん」

 

今、俺の言動で彼の未来を変えてしまった気がする

良くも悪くも...変えてしまった気がする

またやってしまったのか俺は

気を付けていたのに...せっかく一歩引く事を覚えたのに

 

"お前は本当にお節介な子"

"カウンセラーにでもなったつもり?"

"中途半端な慰めはもう充分よ"

 

ああ、俺が悪かった

本当に...ごめん

 

「ごめんね...」

 

「咲玖!?」

 

 

 

 

 

 

「...あれ、俺なにして......」

 

「咲玖!」

 

「とう、わ?...どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃねぇ!

急に"ごめんね"とか言って倒れるし、呼んでも起きねぇしビックリしたんだからな!」

 

「あ...」

 

「体調悪かったのか?」

 

「いや、大丈夫だよ...冬羽がソファまで運んでくれたの?」

 

「床じゃ体が痛くなっちゃうだろ!本当は医務室まで運びたかったけど、さすがに1人じゃ抱えらんねぇから...さっき、先生に来てもらって一応大丈夫だって言われたけど

本当に、どこも痛くねぇ?大丈夫か?」

 

「...ふふ、大丈夫だよ ありがとう冬羽」

 

「なぁに笑ってんだよっ!笑いごとじゃねぇぞこのやろうっ」

 

「あはっ、ちょっと、わしゃわしゃしないで

髪が乱れるから、ははっ」

 

「......」

 

「冬羽?」

 

「何が"ごめん"だったんだよ

俺、咲玖が心配してくれてるの知って嬉しかったし

考え直す事だって咲玖がいなきゃしなかったもしんねぇ

そしたら、俺はまた懲りずに死ぬような真似して本当に死んだかもしれねぇ

なのに、何を謝ったんだよ...」

 

「...それは」

 

「咲玖は自分の言動で誰かの未来を変えるのが怖いとか言ったけどさ

そんなもんいくらでも変わってくだろ

不可抗力で、無意識に、絶対なにかしら変わるだろ

それの何がいけないんだよ

誰だって他人と関わって、変わりながら生きてんだぜ?

俺だって少なからず咲玖を変えてる

襲も、黒雨も、お互いに...」

 

「冬羽...」

 

「俺は咲玖に未来を変えられたって後悔しねぇからな!どんなに干渉されたって最後に選ぶのは俺だ、俺が決めて進むんだよ

考え直すのも俺の勝手!...だろ?」

 

「うん...うん、そうだね...その通りだ...」

 

誰かに何か言われて変わるほどのこと

何があっても変わらないこと

それは俺の言葉があってもなくても関係ない

良いように転がっても

悪いように転がっても

相手の決断であり選択

 

少なくとも、メンバーには言動を遠慮しなくてもいいのかもしれない

皆それぞれ自分を持ってる

俺の"お節介"くらいでは壊れそうにないもの

それはなんて心強いんだろう

 

やっぱり俺の居場所はここなんだ

"あの頃"には見つけられなかった

初めての居場所...

 

「冬羽、ありがとう...もう大丈夫

撮影に行こう 仕事の時間だ」

 

「...おう!今日もかっこよくポーズ決めるぜー!」

 

 

 

 

 

 

"本当にお節介な子..."

 

ああ、そうだね

それでも決めたのは貴女だ

俺じゃないよ

 

「姉さん...」

伝わる想い...

「シャーロット...シャーロット、おい」

 

「にゃーん...」

 

てしてしと尻尾で床を叩きながら

黒猫のシャーロットが振り向く

 

「お前、俺のピアス持っていっただろ

どこへやった?返せよ」

「ニャー...」

 

バレたか...という目をして

仕方なくピアスを持ち込んだ自分の寝床へ歩いてゆく

 

「ニャー、ニャー」

 

"ここにある"と、寝床の毛布を爪で引っ掻いて教える

 

「ああ、この下か

まったく...ピアスは玩具じゃねぇぞ」

「ニャー...」

 

奪われた片方のピアスを付けると

シャーロットを抱き上げてキッチンへ

 

「今日はなに食う?...つっても、全部キャットフードだけどな」

 

棚に並ぶ沢山のキャットフード

それぞれ一袋が一食分で

味は五種類ほどある

 

「ニャー...ン...ニャ!」

 

顔を寄せてキャットフードを品定めしていたシャーロットが

一つの袋の前で鳴く

 

「ん?ああ、これか...ちょっと待ってろ

いま皿に出してやるから」

 

隣の棚を開き皿を選び取る

シャーロット用の餌皿もこれまた沢山あるのだ

白くて円いシンプルな平皿

銀細工の施された小さな皿

猫の顔の形をした黒い皿もある

 

「ほら、食っていいぞ」

 

餌を皿に出してやり

テーブルの上に置くと

シャーロットは椅子に飛び乗り座る

不思議なものでテーブルには乗らない

 

「ニャーン」

 

"いただきます"の代わりに一鳴きして

チビチビと食べ始めた

 

と、そこに

 

(ガチャガチャッ...ガチャン)

 

「あん?誰だ...」

 

玄関が開き、誰かが入ってきた

 

「うぃーっす襲ぇ♥

つーか、また鍵閉めてなかっただろー

危ねぇなぁもうー

不審者が入ってきちゃうぜっ!」

 

「ああ、お前みたいな奴の事か...冬羽」

「ニャーン」

 

「俺は不審者じゃねぇだろ!」

 

まるで我が家のように

ずけずけと上がり込んだ冬羽は

これまた我が家のように

シャーロットの隣に座った

 

「ニャー...」

「おー、シャーロットちゃん!

元気かー?って、食事中だった?

これは失礼しましたレディ」

 

わざとらしく謝る冬羽に

シャーロットが向けた目は冷ややかで

しかし彼は気にも止めず

襲に話しかけ始めた

 

「あのさ、俺ちょっと話があってー...聞いてくれねぇ?」

「嫌だつっても話すんだろ...」

 

そう言いながらキッチンへ行き

二人分のコーヒーを淹れて戻って来ると

冬羽の前の席に座った

 

「サンキュー♪襲が淹れるコーヒーって美味いんだよなぁ...んー、いい香り」

「そりゃどーも...んで、話ってなんだよ」

 

コーヒーを一口飲むと

冬羽はゆっくり話し始めた

 

「俺ってさ、Vanneに必要あるかな...」

「...はぁ?」

 

それは思いもよらぬ言葉で

ハッキリ言えば愚問で

おおよそ"看板息子"と言われている彼に

似つかわしくない悩みだった

 

「なんだその悩みですらねぇ悩みは...お前Vanneで活動しなきゃどこでやってくんだよ」

「ん...それって俺がVanneに必要ってコト?」

「あー、まぁ、そうだな...つーか」

 

呆れたように肘をつき

襲は真っ直ぐ冬羽の目を見た

 

「Vanneがお前を必要としてるんだよ...」

 

元々、Vanneというグループは

看板息子の冬羽を活躍させるために

冬羽に無い要素を持ったメンバーを集め

結成されたグループ

 

つまり、Vanneは冬羽のためにあり

冬羽はVanneのためにある

 

しかしそんな事を

当人は知らないでいたのだ

 

「Vanneがー...俺を...」

 

なにやら考え込み始めた冬羽に

そもそもの疑問をぶつける

 

「つーかお前、なんでそんな訳わかんねぇ悩みが急に出てきたんだよ...馬鹿じゃねぇのか

いや、お前は馬鹿だったな...忘れてたわ」

「ニャー...」

 

「Vanneが...おれ...って、馬鹿じゃないし!

ん?あ、俺がなんでそう思ったかって?

そりゃあ俺ハイテンション以外に良いトコねぇし...あんまり個性なくね?

だから、いてもいなくても大差ねぇんじゃないかと思って」

 

ハイテンションを良い所としているのは

些かどうかと思うが

まぁ今は置いておこう

 

「やっぱり馬鹿じゃねぇか」

「なんだとぅ?!」

「ニャーッ!」

「痛いっ!ちょっとシャーロットちゃん急に引っ掻かないで!冬羽くん泣いちゃう!」

「ナイスシャーロット」

「ニャーン」

「やだ怖いこのコンビ...」

 

もちろんVanneは襲のためにもあり

咲玖のためにも、黒雨のためにも存在している

だが、存在する原因と言えば冬羽だ

冬羽が生まれなければVanneもなかった

その辺を彼は理解していなかったのだ

 

「お前が急に的外れなネガティブを抱えるのは今に始まった事じゃねぇけどな

その話はあれこれ議論したり助言を貰ったりする必要すらねぇよ

お前がVanneであり、Vanneはお前なんだ

くだらねぇこと言ってねぇで働け」

 

そう、冬羽の長所はいついかなる場合もポジティブであるところ

しかし彼はポジティブなままネガティブなものを抱え込むことがある

それは酷く矛盾していて

だからこそ危うい...

 

「んー、そっかぁ

じゃあ俺はVanneの冬羽でいなきゃだな!

違ったら今から辞めようかと思ってたんだけど、そうじゃねぇならいいや」

 

こういう具合で、実に厄介な性質だ

 

「今からって...またそんな極論持ちやがって

お前ホント馬鹿だな」

 

下手なことを言わずにおいて良かったと

内心ホッとする襲をよそに

当人はあっけらかんとしている

 

「そうかー?」

「そもそも辞めた後どうする気だったんだよ」

「それは...ま、なんとかなるっしょ!

結局、辞めずに済んだしめでたしめでたし」

 

つまり無計画だったということ

そして辞めるという結果にならなかったのだから

無計画だった事に関してはもうどうでもいいということ

だから、めでたしめでたし

 

「テメェ頭のネジどっかに落としてきたんじゃねぇのか」

「ニャー!」

「いっっってぇ!!だからシャーロットちゃん急に引っ掻かくのやめ...」「ニャッ!」

「いたっ!猫パンチもやめてってばー!」

「いいぞ、泣くまでやれシャーロット」

「泣くまで?!」

 

その後、ひとしきりシャーロットに引っ掻かれパンチされ疲弊した冬羽は

半ば逃げるように帰った

 

「ニャフ!」

「満足気だなシャーロット...」

「ニャーン」

「ああ、あれでいい

あの馬鹿にはあれで...」

 

座り込み、目を閉じて深い溜息を吐く

 

「ニャー...」

 

心配そうに寄り添うシャーロットを撫でる

 

「アイツは"ああ"だから、自分の存在の大きさや危うさには気付かねぇんだ

多分、咲玖や黒雨も薄々感じてるだけで冬羽に闇があるって認識はしてねぇだろうな

俺だけが知ってる...よりによって俺だけが気付いた...言葉が過ぎるのに言葉が足りねぇ俺が...」

 

「ニャ...」

 

「ゴチャゴチャ言わねぇで教えてやりゃあ良かった...お前は絶対必要だって、一言...分かりやすく伝えてやれば良かった...けど、俺には...」

「ニャーッ!」

「...っ!」

 

初めて、シャーロットが襲に爪を立てた

 

「なんでここで怒るんだよ...悔やむなって?」

「ニャ!」

「つったって...あんな回りくどい言い方じゃアイツまた訳わかんねぇ悩み持ってくるぞ...もっと根本から解らせてやらねぇと」

「フシャーッ!」

「いってぇなオイ!俺に毎回アイツの闇を払えとでも言うのかよ!」

「ニャーン」

「...マジか、それ俺の役目か?」

「ニャフ!」

「あーそう、そーですか...クソ冬羽くたばれ

厄介な生き方しやがって

...まぁ、俺も大概 人のこと言えねぇか」

「ニャー...ニャー...」

「お前は相変わらず変な猫だな

さっき俺に説教したろ...なんでか知らねぇが解った

いつもお前の言葉は伝わってくる

ニャーしか言わねぇのに...な...」

 

そこまで言って彼は気付いた

何を言っても伝わるものは伝わる

どんな言葉でも、言葉ですらなくとも

そこに"想い"があれば

きっと、伝わるのだと

 

「...そうか、俺でもいいのか

俺にも、アイツを闇から掬い上げることは...」

「ニャーン...」

 

そうして、襲は冬羽の影で光になることを

密かに一人 心の中で決めたのだった

 

これは、Vanneが結成され

半年経った日のお話である。

君を生きるのは...

神を信じながら

神に縋りはせず

生きている子供がいる

 

「神様が僕を見守ってくれることはあっても

僕を生きるのは僕しかいない」

 

そう言って、生きている子供がいる...

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「こまいぬさーん♪おはようさんさん♪」

 

深い紺の着物を着て

黒髪に紅い髪留めをした少年が

神社の狛犬に話しかけている

 

「今日も寒いねぇ、僕良い物持ってきたんだよー...んーとねぇ...」

 

ゴソゴソと着物の袂を探り

"良い物"を取り出す

 

「じゃーん!おみかん!あ、蜜柑ねミカン」

 

彼の手には小ぶりの蜜柑が三つ

そのうち一つを話しかけていた狛犬の前に

もう一つを反対側にいる狛犬の前に置くと

最後の一つを自分で食べ始める

 

「むいてーむいてーもいでーもいでー...ぱくっ!...んんっ、あまぁい♪

今年の蜜柑は美味しいんだよー、こまいぬさん知ってたー?」

 

物言わぬ石造りの狛犬

尚も彼は話しかける

 

「蜜柑は小さいのが甘いんだって!欲張って大きいの選ぶと実は損なんだよ

まるで昔話みたいだよねぇ......あっ!」

 

自分の蜜柑を半分ほど食べたところで

少年はハッとし、食べる手を止めた

 

「えーっと...ちらり...」

 

恐る恐る後ろを振り向く

そこには拝殿があり、奥には神様の依代となる御神体の置かれた本殿が見える

 

「あのね、神様の蜜柑...忘れちゃった」

 

何もいないようにしか見えない奥の本殿へ向かって

狛犬に話しかけていたように話す

 

「今日は神様に会いに来たんじゃなかったの...こまいぬさんと遊びたかっただけだから

でも、ごめんなさい

こまいぬさんと遊ぶなら神様に御挨拶がいるよね...どうしよう」

 

本当に困った顔をして

オロオロと辺りを見回す

 

ふと、手に残っていた半分の蜜柑が目に付いた

 

「んーむ...これは、いや、でも...ちょっと申し訳ないけど...無いよりは...?」

 

半分だけの蜜柑を睨み

なにやら思案すること10分

意を決したように顔を上げた彼は

蜜柑を持って拝殿の前へ立った

 

「これ...食べかけだけど、毒味をしたと思って許してくれると嬉しいなぁーなんて...」

 

おずおずと蜜柑を差し出し

ちら、と奥の本殿を見やろうとした

その時...

 

「そんな食べかけを我に寄越すとは何事かーっ!」

 

神様が怒った...と言うか喋った

と、そんな訳はなく

 

「...咲玖たん、僕はそういうのじゃ驚かないよ」

「あれっ、ダメかぁ...ふふ、今日も神様と仲良くしてる?黒雨」

 

"黒雨"と呼ばれた彼は振り返り

階段の下から見上げている男を呆れ顔で見る

 

「咲玖たんが邪魔したから狛犬も神も引っ込んだって言ったらどうしてくれるのー?」

 

「えー?それが本当だったら申し訳ないなー...あ、これあげるから機嫌直して」

 

そう言って、咲玖が差し出したのは

 

「みかん...」

 

「そうだよ、甘くて美味しい小ぶり蜜柑」

 

「...咲玖たん分かってるぅー!」

 

黒雨は一瞬にして笑顔になり

蜜柑へ駆け寄る

 

「綺麗なやつちょーだーい!」

 

「んー?これとか、これも綺麗だよ...はい」

 

いくつか蜜柑を受け取ると

また拝殿の前へと戻る

 

「神様、これあげるね!」

 

黒雨は賽銭の代わりのように

蜜柑を拝殿の前に置くと

キチンと参拝し、また狛犬の横へ腰掛けた

 

「あれ、僕の蜜柑の半分がない...咲玖たん!食べたでしょ!

君は自分で持ってきた蜜柑があるのになんで僕の蜜柑まで食べるんですかー?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ黒雨...俺は食べてないからね?って言うか、ずっと手に持ってなかった?」

 

「むー......ふむ、確かに僕は自分で半分の蜜柑を持ってた...あれぇ?」

 

「神様が悪戯で食べちゃったのかもね、ふふ」

 

「なに?!ちょっと神様ぁ!ちゃんと蜜柑あげたのに僕の食べることないじゃーん!」

 

突如本殿に向かって怒りだした黒雨に

驚きを隠せない咲玖が駆け寄る

 

「いやいやいやいや黒雨...神様って本当に蜜柑食べたりとか...それ以前にいるの?そこに?嘘でしょ?」

 

「もう!神様が僕の食べたなら僕は神様の食べるからね!それでおあいこだよ!」

 

咲玖の言葉を無視して

さっき拝殿の前に置いた蜜柑から一つ取ると

もぐもぐと食べだした

 

「ねぇ、黒雨くーん?神様って本当にいるの?ねぇ、ねぇってば...」

 

信じる事も、否定しきることも出来ず

咲玖はただ黒雨に問い続けた

 

すると、蜜柑を食べ終えたところで

彼は立ち上がり、狛犬を撫でながら

質問を質問で返す...

 

「...そんな事を知って、君はどうするのさ」

 

「そうだなぁ...もし、今そこに神様がいるなら

今後も皆に平穏無事を与えてくださいってお願いしたいかなぁ」

 

「どうして?」

 

「え、"どうして"って...そりゃあ皆には元気でいて欲しいもの」

 

「そうじゃなくて...」

 

振り返り、咲玖の目を見て問う

 

「平穏無事に生きるも死ぬも

僕らの勝手、行動次第なのに

何故それを神様に頼むの?」

 

参道から風が吹き

本殿の奥の布を揺らす

 

「僕を生きるのは僕であって、神様じゃない

だから僕は神様に僕の未来をお願いしたりしない

じゃあ、君を生きるのは誰?

ねえ...だぁれ?」

 

吹き止まぬ風が木の葉を巻き上げ

咲玖と黒雨の間を遮るように流れてゆく

 

「俺を生きるのは...ああ、生きるのは...俺だ」

 

ふ、と笑い

咲玖が拝殿の前に立つ

 

「...」

 

蜜柑を一つ置き、参拝をする

一礼を終えた頃には

風は静かに止んでいた

 

「何を願ったの?」

 

黒雨が無邪気な笑顔で聞く

 

微笑みながら咲玖が答える

 

「...いや、なにも......なにも願わなかったよ」

 

 

 

 

 

 

神を愛しながら

神を頼りにはせず

生きている子供がいる

 

「神様に何を願っても

僕を生きるのは僕しかいない」

 

そう言って、生きている子供がいる。

冬羽生誕祭

「いえーい!みんなテンションはどうー?

今日はこの俺、冬羽さんの誕生日だぜっ!」

 

自ら本日の主役のタスキをかけて

いつもより更にハイテンションで楽屋に入ってきたのは

01月06日が誕生日の冬羽

 

「うるせぇ」

「はいはい、おめでとうおめでとう」

 

「襲ぇ、黒たーん...人の誕生日くらい快く祝おう?俺が生まれた事を喜ぼう?」

 

「俺は喜んでるよ冬羽

張り切ってケーキ作っちゃった

良かったら食べて」

 

「さああああくうううう!!!

愛してる...もう俺を彼女にしてくれ

いや、嫁に来てくれ」

 

「それはお断りするけどね」

 

「僕にもケーキー」

「咲玖、そのチョコプレートくれよ」

 

「ちょっとちょっとお二人さん!主役への祝いの言葉もなしにケーキだけは食おうなんて、どうかと思う!とりあえず俺を祝って!生まれてきたことへの感謝を!」

 

「僕さっきおめでとうって言った」

「棒読みでな!」

「俺も言った...頭の中で」

「せめて心の中で言って...なんで頭の中...」

 

襲と黒雨のローテンションに

冬羽の気分まで下がる中

咲玖だけはのほほんとしていた

 

「ふふ、今日も平和でなによりだ」

「え、うそ、俺ただただ悲しいんだけど...」

「うん?...そっか、じゃあ楽しくなってもらおうかな?」

「たのし...」

 

咲玖の言葉を合図に

黒雨が立ち上がる

 

「イッツ...ショーターイム!

ピタトワ装置~発☆進!!」

 

「え、なに黒たん...急にっ???!?!」

 

隠し持っていたボタンを押すと...

 

「あーっっっ!!!!床抜けたああああ?!?!?!?!」

 

冬羽が立っていた部分の床が突如落ちた

 

下には何故か滑り台があり

なす術なく滑ってゆく

 

「ぎゃああああああ!なにこれぇ?!?!」

 

混乱しながらもキラキラと光る電飾が目に入り

よく見ると壁に花や文字が散りばめられていた

 

「H...APP...Y BIRTH...DAY...ハッピーバースデー!?」

 

長い滑り台が終わり地下のスタジオに着いた

 

「あー、ビックリし...たっ?!?!」

 

安堵もつかの間、背後から巨大なステーキが迫ってきた

 

「えっ?えっっ??なにあれステーキのオブジェ?!でかい!!むり!!!」

 

「冬羽たんお肉好きでしょー!」

 

どこからか拡声器を通して黒雨の声が聞こえた

 

「好きだけどこういう事じゃないー!!!」

 

迫りくるステーキ(作り物)から逃げながら叫ぶ

するとスタジオの奥に障子の貼られた枠があった

明らかに罠だが後ろからステーキが来ていて飛び込む他ない

 

「これ芸人さんがやるやつー!!!!」

 

先に何があるかわからないが

意を決して飛び込んだ

 

「うおおお!!!」

 

障子を破り床に伏せる

頭上をステーキが通り過ぎたのが分かった

見事、逃げ切った...が

 

「あっっっま!!!なにこれ甘い!ベタベタす...って、生クリームうううう!!!」

 

障子の向こうにあったのは大量の生クリーム

顔面からスライディングしたため

白粉を塗ったように真っ白である

 

「「「ハッピーバースデートゥーユー

ハッピーバースデートゥーユー

ハッピーバースデーディア冬羽~♪

ハッピーバースデートゥーユー!」」」

 

バースデーソングを歌いながら

メンバーがどこからともなく出て来た

その手には...

 

「あ、ちょ...それ、待っ...」

 

「「「おめでとー!!!」」」

 

バーン!という爆発音と共に

身の丈ほどもあるクラッカーから

色とりどりのテープや花吹雪

そして、何故か小麦粉が降ってきた

 

「ゲホッ...ぺっ!ぺっ!なん、なんで粉...」

 

「どう冬羽、楽しくなったでしょ?」

 

咲玖が笑いながら問いかける

 

楽しいよりもまず、他に祝い方があっただろうとか

最後の小麦粉の必要性とか

こんな大掛かりな装置いつ作ったんだとか

色々、本当に色々思うところはあったけれど...

 

「ああ、そりゃあもう楽しかったですとも...本当に...卒倒しそうなくらい...

お前ら最高だよ!バーカ!!」

 

満足げな咲玖と黒雨、珍しく無邪気に笑っている襲

甘い生クリームと色の海

そんな素敵なものに囲まれている自分

これを楽しいと言わなければ

何が楽しいのか分からないほど...

 

「...ただ、やっぱり他に祝い方あったよな?」

「「「ない」」」

「うーそーだーよおおおおお!!!」

 

こうして

ピタトワ装置は大成功に終わった

 

 

 

 

 

「あれピタ○ラ装置って言えなくない?まぁ、いいけど...」

「細かいこと気にするとハゲるよ~

あ、これ誕生日プレゼントね!」

「なぁに黒たん、あれ(装置)以上のプレゼントがある...の...」

「冬羽たんに迫って行った巨大ステーキ差し上げまーす」

「い ら な い !!!!!」